原作ラスト | ミュージカル・ラスト | スケート
＊ネタバレあり
「カジモドの結婚」
カジモドの不思議な失踪について、以下が我々の知りえたことである。
この物語を終える出来事から約２年もしくは１年半後、絞首刑となったオリヴィエ・ル・ダンの遺体がシャルル１３世のはからいによりサン・ロランに手厚く埋葬することが認められたため、処刑の二日後に彼の遺体を人々がモンフォコン墓地の穴倉に捜しに行った時のことである。累々とした恐ろしい骸の中に、一方がもう一方を抱きしめている風変わりな二つの骸骨があった。
この二つの骸骨の一方は女のもので、以前は白かった布のドレスの切れ端が体にまだ少し残っていた。その首にはアドレザラシュの実の粒の首飾りがかかっていて、開けられて空になってはいたが、緑のガラスで飾られた絹の小さな袋がついていた。これらの物はたいした価値がないのでおそらく死刑執行人も欲しがらなかったのだろう。
この骸をしっかりと抱きしめるもう一方は、男のものだった。その背骨は曲がり、肩甲骨の中に頭がめり込み、片方の足がもう一方より短かった。そしてうなじの脊椎には傷一つなかったから、絞首刑にかけられたわけではないのは明らかだった。この体の持ち主だった男はつまり、ここへ来て、ここで死んだのだ。この骸を、抱きしめている骸骨から離そうとすると、それは塵となって崩れ落ちた。
[訳：Mew]
「Danse mon Esmeralda 踊って 僕のエスメラルダ」
カジモドが、死んでしまったエスメラルダの体を抱きしめながら歌うラストの歌。
幾年も過ぎた時 大地のもとに見つかるだろう
僕ら二人の骨の骸が 抱きしめあったまま
宇宙に向かってこう言うのが
カジモドがどれだけジプシーのエスメラルダを愛していたか
神が彼を醜くしたのは
彼の背負う十字架を軽くするため
僕の体を食べるがいい 僕の血を飲むがいい
モンフォコン墓地のはげたかよ
時を越えた死は 僕らの名前を結びつけるよ
僕の魂を飛び立たせておくれ 地上の労苦から遠くへ
僕の愛を溶かしておくれ 宇宙の光に
踊って 僕のエスメラルダ 歌って 僕のエスメラルダ
僕のためにもう少しだけ踊って
死ぬほどに君を愛しているよ
踊って 僕のエスメラルダ 歌って 僕のエスメラルダ
君と一緒に行かせて
君のために死ぬのは本当の死ではないんだ
踊って 僕のエスメラルダ 歌って 僕のエスメラルダ
僕の腕でお眠り
死ぬほどに 君を 愛しているよ
踊って 僕のエスメラルダ 歌って 僕のエスメラルダ
あの世の そのまた向こう
君のために死ぬのは 死ではないんだ
踊って 僕のエスメラルダ 歌って 僕のエスメラルダ
君と一緒に行かせて
君のために死ぬのは 死ではないんだ
原作では後日談として語られるシーンを、ミュージカルではカジモドの最後の想いとして現在形で描く。
エスメラルダが生きている間、カジモドはほとんど彼女に触れることはなかった。カジモドが最後に彼女を抱きしめながら「僕のエスメラルダ」と歌う姿は胸を打つ。
Marina Anissina & Gwendal Peizerat マリーナ・アニシナ＆グエンダル・ペイゼラ。フランスのアイスダンス・カップルで、ソルトレーク・オリンピックの金メダリスト。二人は「踊って
僕のエスメラルダ」を1999年4月～2000年12月（NHK杯・写真右）までエキシビションナンバーとして滑っていた。
タイトル通りのカジモドの最後の願いが、氷上で実現する。
当初グエンはカジモド・メークで背中にこぶをつけて、マリーナの衣装は赤を基調にしたものだった。グエンはこぶをなくし、最後にはカジモドメークもやめてしまっているが、その演技はカジモドであり続けた。
＊以下は、マリーナとグエンのスケート・プログラムのレポートです（長文）。ご興味がなければこのままページ先頭にお戻りください。
2000年NHK杯でのレポート by Mew
オープニングポーズ、エスメラルダの亡骸をリンクサイドの壁の上に乗せ、その上にカジモドがもたれかかり・・・。そして曲がかかりGarouの歌声が場内に響きます。エスメラルダを抱きかかえて歌うカジモド。
抱きかかえていたエスメラルダをカジモドはゆっくり氷の上に立たせて降ろす。エスメラルダはまだ死んだままの状態、体をだらりとさせたまま足だけで滑り出す。カジモドが彼女の片手を上げ、もう片方の手を上げ、ゆっくりとゆっくりとエスメラルダを蘇生させていく。頭上リフトのあと、エスメラルダを降ろしてそっと体を押す。手を広げながらすーっと滑っていくエスメラルダ。彼女を追いかけるカジモドは、このプログラムで唯一カジモドらしい動きの歩き方。
「踊って 僕のエスメラルダ」の歌詞が響く中、一緒に滑り出す二人。まだ眠っているエスメラルダの体をやはりカジモドはゆっくりと動かし目覚めさせていく。「僕の腕の中で」の歌詞のところで腕いっぱいに後ろからエスメラルダを抱きしめるカジモド、そしてエスメラルダの体にあふれんばかりのキス、キス、キス！！膝をついて両手を天に仰ぐカジモド、「もう少しだけ踊って」というカジモドの願い通り、蘇り、いきおいよく踊リ出すエスメラルダ。「あの世のそのまたむこう」のところでカジモドがエスメラルダを十字架状態で背負うのを見ていると、歌詞に出てくる彼の背負った十字架・・・を連想します。美しい十字架・・・。
ラスト近くでいったん曲が途切れるところで、カジモドはエスメラルダをぎゅっと抱きしめる。沸き起こる拍手。しかしグエンとマリーナは「まだ終わってない」というかのようにスピードをさらに上げ、再び曲が流れ・・・そして最後のひときわ高いリフト、そこからエンディングポーズへ・・・。2000年3月頃までは、最後はエスメラルダが一人すーっと滑っていく・・という形で終わっていたけど、2000年4月あたりから、カジモドがしゃがみこんでエスメラルダの体を抱きかかえながら寄り添って終わる形に。それがよりいっそう「抱きしめあったままの白骨で見つかった」二人の最期に近いような気がして、プログラムがさらに洗練されたように感じました。
舞台ではエスメラルダは決して動くことはなかった。それは、死んでしまった者は決して蘇ることはないという現実です。でも、二人のエスメラルダは違う。「もう一度踊って」というカジモドの最後の願いを、舞台では決してかなうことのなかった願いを、マリーナとグエンは叶えてくれました。二人の「Danse
Mon Esmeralda」の演技は、単に舞台の曲を使っただけのプログラムではなく、舞台をまねたものでもなく、舞台から彼らが作り上げたものでした。まるで舞台の続きを見ているよう。カジモドへの鎮魂歌のよう。素晴らしいミュージカルから、素晴らしいスケートの世界が作り上げられていました。
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